「鶴」でよかった・・・

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上毛かるた最強のカード、「つる舞う形の群馬県」。

群馬県民のほとんどが群馬県の形を伝えるときに使う比喩表現にもなっています。さらには「首の付け根」や、「くちばしのほう」など、県内での位置を示すときにも「鶴」を借りたりします。山形の「人の横顔」、愛知の「猫」などユニークな形の県もありますが、大多数の群馬県民はそのスッキリと格好のいい、シンボリックな「鶴舞う形」に誇りを持っているのではないでしょうか?さて、そんな「鶴舞う形」ですが、では、そう表現されたのはいったい何時からで誰が言い出したのか?ふと気になったので、ちょっと調べてみました。

群馬大学、山口幸男先生編著、『現代群馬の郷土教材探求』(あさを社刊)から抜粋、引用すると・・・

群馬県が鶴の舞う姿として比喩表現された最初は、明治十六年刊行の今井匡之・小野如風編纂『群馬県地誌略』の中の

「地勢ハ、西北ヨリ斜ニ南東ニ延ヒ、其形宛モ舞鶴ノ如シ、胸首ニ当ルノ地ハ、平衍ニシテ、沃野多ク、背尾乃両翼ノ間ハ、高燥ニシテ、峰巒蟠亘シ」

という叙述であるとされている。(中略)
また、勢多郡東村に記念館(童謡ふるさと館)のある石原和三郎(編註:『兎と亀』、『金太郎』などを作詞した勢多郡東村花輪出身の童謡作家)によって明治三十三年に作詞された唱歌教科書『上野唱歌』(全四十九番)の一番には

「晴れたる空に舞う鶴の 姿に似たる上野は 下野武蔵岩代や越後信濃に境して」

と鶴との類似性が美しく詠われている。このように、明治年間において「鶴」に比喩表現することはかなり普及していたといえよう。
と、ここまで読んだところで「なるほどなぁ」と思ったのですが、ページを進めていくと「鶴」とは別のある「生物」の名前が出てきたのです・・・。
その生物とは・・・

「海鷂魚」
えっ?何それ?てか、読めないし・・・。
ちょ、ちょっと待ってよ!とさらに読み進めると、



これです・・・。
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海鷂魚【エイ】:軟骨魚類のエイ目の総称。(大辞林より)

そう、海を泳ぐあの「エイ」です。顔がエイリアンのようで、海無し県の群馬県には全く縁の薄い魚類の「エイ」ということなんです。しかも、「海鷂魚」のほうが「鶴」より先に文献に出現していたというのです。

その文献とは明治十四年、杉山義利(中之条)著の『上野地誌略』の冒頭、「総論」として

    「地形海鷂魚ノ如クシテ、東山道中一國ナリ」

との記述がみられます。さらには、県が公に毎年発行している『群馬県統計書』の明治十六年版には群馬県の解説として

    「地形ノ殆ント海鷂魚ノ東南ニ飛フニ似タリ」

と出てきます。続く明治十七年版には

    「東南ニ斗出シテ其ノ形殆ト海鷂魚ニ似タリ而シテ首ハ西北ニ向ヒ尾ハ東南ニ伸フ」

と記述され、大正四年版における

    「其ノ形恰鶴ノ舞フカ如ク首ハ東南ニ向ヒ尾ハ西北ニ伸フ」

の記述にて初めて「鶴」が出てきます。つまり、明治十六年から三十年以上に渡って、公には群馬県の形は「海鷂魚」に似ていると記されていたという事実があるのです。しかも、首と尾の方向が「鶴」とは全く逆という点も驚きです。(明治十六年版は何故かエイの頭が東南なのですが・・・)

しかし、何故海無し県の群馬県が「海鷂魚」に喩えられたのか、大正初期において「海鷂魚」は何故消えたのか?山口先生は邪推として以下のように結んでいます。

 明治初期の群馬県は県令楫取素彦が山口県(長州)出身であったように、西日本諸県の出身者が上層部のかなりを占めていた。(中略)したがって、群馬県統計書の編纂に関わった人達の中に西日本出身者がいたということも十分ありうる。ところで、「えい」「あかえい」という魚は主として日本の南西部海域に生息し、長崎県、山口県、福岡県などで水揚量が多く、西日本諸県の人々にとっては馴染みのある魚のようである。(中略)西日本諸県出身者が群馬県の形(地図)をみて「海鷂魚」を連想し、記述したとしても決して不思議ではないと思われる。
 一方、当時『群馬県地誌略』などの郷土地誌教科書によって群馬県の形を「舞う鶴の如し」と学んだ群馬の小学生たちが、大正時代に群馬県庁で活躍する年代となった時、統計書にある「海鷂魚」という比喩表現に違和感を持ち、自分たちが学んできた「鶴」に書き改めた。(中略)「海鷂魚」から「鶴」への転換は、群馬県民が自らの地域に対する主体性を確保していった歴史的ひとコマとみることができ、貴重な意味を持ってくることになる。
近代群馬県民の自立の象徴が「鶴舞う形」であったということ、これが事実だとすれば、かなり感動的なエピソードですよね。
上毛かるた最強のカードであるのも十二分に納得できます。

「エイ飛ぶ形の群馬県」 ではハッキリ言ってヤです。 ^^
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by sanzokuame | 2005-02-20 23:31 | ぐんまな資料


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