展望の小沢岳

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下仁田の南、南牧との町村境に聳える小沢岳。山麓から見えるその姿が槍の穂先のような鋭峰であることから、西上州のマッターホルンとも、槍ヶ岳とも称されている。下仁田の町から近く、短い行程で明瞭な登りやすい登山道を持つ小沢岳は、頂上からの大展望にも恵まれ、西上州入門の山として高い人気を集める。私が最初に登ったのはもう15年以上も昔に遡るが、以来その展望の良さの虜となり、何度となく足を運んでいる山のひとつである。下仁田の町からは県道45号線を南牧村に向い、跡倉の信号を左折(その案内役が)、青倉川に沿う県道172号線を南に走ると、間なく正面に「マッターホルン」が現す。やがてその勇姿は石灰岩を採掘している岩山に隠され、赤岩集落の石灰工場の脇を通り過ぎる頃からは谷あいの空が急に狭まり始める。坊主淵のバス停を「小沢岳→」という小さな看板に従い右折。心許ない日陰道をさらに進んだ七久保橋の先が小沢岳への登山口だ。ここは下仁田の町から見れば小沢岳の真裏に位置する。車が入れるのはここまで。8台ばかり置けるスペースに停めたら、沢筋に沿った林道歩きの始まり。小沢岳への山登りは、林道歩き30分、椚峠からの山道50分である。その前半の林道であるが、かつては四駆であれば十分に走れる道であった。過去形になってしまったのは、一昨年の台風による水害のために至る所で崩落してしまったからだ。登山口にはその旨を告げる看板が立ち、登山初心者と増水時の通行を禁じていた。赤字の注意書きを見ると、どれほどの被害かと少々不安になるが、ここまで来て諦めるのはしゃくというものだ。今日の歩き始めは既に正午近く。山登りの通例であれば、もう下山する時刻である。さてとザックを背負い、これから林道を歩き出そうというところに中年のご夫婦が落ち葉を踏む乾いた音とともに降りてきた。「こんにちは。これからですか?」と陽気な奥さん。「林道はそこらじゅうで流されちゃっててすごいですよ。でも、歩くぶんには大丈夫ですけどね。」と、こちらから聞く前にありがたい現地報告。ご主人は寡黙な性格らしく、そうそうと言わんばかりにパートナーのひと言ひと言に頷くだけだった。礼を言い、改めてザックの腰紐を締め直す。歩き出して間もなく、かつての林道が林道でなくなっているのを目の当たりにする。沢筋を流れ下った濁流は岩石を巻き込んだ土石流となり、あちこちで林道の法面を深く抉ったようだ。林道はあらゆる乗り物の進入を拒む‘登山道’と化していた。それ以来全く手付かずの様子、その復旧はいつになることだろうと、町の行政に余計な心配をしながら荒れた林道を進む。大半は陽の当たらない林道だが、時折太陽が山の合間に姿を現すと赤や黄色に染まった木々の葉を透かして見せる。何度目かの小さな沢を渡り、右手に杉の植林が続く直線を登り詰めると、北の空が大きく開けた椚峠に着いた。登山口からはまだ30分ほどだが、一旦荷を降ろし、軽くのどを潤す。ここからは山頂までの尾根が徐々に高度を上げながら北へ延びているのが手に取るように判る。目標は明確、いよいよ尾根道へと歩みを進める。尾根の右側は相変わらず深い杉林が続くが、左側は高い樹木が少なく、場所によっては北西側に大きく展望が広がる。今日も威勢のいい浅間はもちろん、西に眼を見やれば碧岩の向こうにはまさに諏訪富士、蓼科山の美しいシルエットも確認できる。途中には人がすれ違えないほどの馬の背や、ちょっとした岩場もあるが、総じて道は易しい。道の所々では可憐な竜胆が出迎えてくれる。道中すれ違ったのは中年の夫婦二組と若い夫婦ひと組、それに矍鑠とした白髪の老紳士がひとり。登りに限っては前を行く者もなければ、着いてくる者もいない。何度か上り下りを繰り返し、杉木立の中の急登を登り詰めたところが「新進の頭」と呼ばれる前衛のピーク。ここからもう一度だけ下り、鞍部から岩の多くなる‘槍の穂先’を登れば間もなく1,089mの小沢岳頂上へ飛び出す。ドウダンツツジやアカヤシオの潅木に囲まれた頂上からの展望は、ぐるり360°。カメラを持っていれば、どこから手をつけたらいいかと、悩まずにはいられない絶景だ。秋の晴天、ちょっと気温が高すぎたのか北アルプスまでは確認できなかったが、上信国境と西上州の山々がまるで箱庭のように広がる。冬の晴天であれば遠く大天井岳や常念岳が見えるというもの納得できる。ひと通りのアングルを撮り終えた後は、地図を広げていくつものピークの同定を楽しむ。西上州入門の山、この山域の位置関係を学ぶにはうってつけの山であることを改めて実感する。頂上に安坐するのは、胸の前で智拳印を結ぶ大日如来像。その前の陽だまりを拝借し、珈琲を沸かして富岡で買い込んだパンで遅い昼食をとる。小春日和の陽射しを遮るものはなく、Tシャツ一枚で展望と爽快さを時間を忘れて満喫する。三杯目の珈琲を飲み終えたときは、既に到着から一時間半が経っていた。結局、頂上は私ひとりのものだった。遅い出発には時にこんな特典がついている。



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赤岩集落の石灰工場


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小沢岳登山口


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杉木立の林道


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林道沿いの道標


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小沢岳東面の杉林


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晩秋の黄葉


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帰宅の途


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椚峠


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椚峠から望む小沢岳


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浅間山遠望


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尾根道


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桧沢の谷


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碧岩越しに望む蓼科山


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桧沢岳北面


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岩尾根


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小沢岳西面


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尾根道と杉林


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竜胆


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小沢岳頂上


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大日如来像


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浅間山方面。浅間山右下の岩峰は鹿岳、その右下のピークが四ツ又山


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下仁田、富岡の街並み。左奥に霞むのは榛名連峰


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妙義方面。左奥には鼻曲山と浅間隠山


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西南西方面。桧沢岳の尾根の遥か遠く、一番のピークは日本200名山御座山


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烏帽子岳方面。右奥に見えるのは八ヶ岳の硫黄岳と天狗岳


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立岩方面。中央の凸はローソク岩、右端の三角は荒船の行塚山


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微かに望む荒船山


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鼻曲山、浅間隠山遠望。手前のピーク連なる山は谷急山


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広小屋山越しの蓼科山遠望。南には横岳、縞枯山、茶臼山が連なる


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御座山遠望


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浅間山遠望。手前に鹿岳の岩峰。その上に上信越道の橋脚が見える


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下仁田、甘楽の農耕信仰の山、稲含山


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小沢岳西面直下


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西日に照らされる小沢岳西面


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錦秋の日影山西面

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by sanzokuame | 2008-11-11 00:49 | 彼方此方にて


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