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根小屋の猫

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上信電鉄、根小屋駅。

高崎駅南の閑静な住宅街をすり抜けた電車は、烏川を渡り、田園地帯を過ぎると間もなくこの小さな駅に到着する。
ここは、かの武田信玄が築城した山城「根小屋城」への玄関口でもある。
幹線道路から外れ、山裾に広がる住宅街の片隅にポツンと建つ木造の駅舎。
たまにやってくる電車も、乗り降りする人はわずかに数えるほど。
ダイヤの長い間隔には、ただひたすらに静かな時間が流れている。

そんな根小屋駅を拠りどころとしているのが、多くの猫たち。
いつ訪ねても2,3匹の姿を見ることができる。
悠々とホームに寝転び、たまの電車を迎えるのはトラ。
人間であれば、もうすぐ100歳を迎えるという大お婆さんである。
実はこの根小屋駅とトラ、ある映画のワンシーンに登場している。

2004年に公開された「珈琲時光」。
「小津安二郎生誕100年記念」として、松竹が「非情城市」で知られる台湾の侯孝賢監督を日本に招いて作った一本。
シネマテークたかさきの柿落としの作品になったことで知る人も多いだろう。
彼の「東京物語」とも称されるこの作品は、東京でフリーライターを生業とする陽子(一青窈)の日常を、
神田や御茶ノ水界隈の昔ながらの景色の中に淡々と、そして静かに描いている。

お盆の墓参りに、陽子は一人高崎線と上信電鉄を乗り継ぎ、高崎の実家に帰る。
帰省中のある日、雨の降るなか陽子は自転車を漕いでトラに会うため根小屋駅を訪れる。
駅前に自転車を停めた陽子は、窓口の向こうに座る駅のおばちゃんにこう尋ねる。

「すいません、トラちゃんは?」
「トラちゃん、(駅舎の)中に居る」
「あー、寝てますね」
「トラちゃん知ってるの?」
「高校の頃、通ってたんで」
「ふーん」
「ちょっと太った?」
「みんなに可愛がられてね、餌をもらって」
「うーん、ぐっすり」
「もうお婆さんだからね」

ただそれだけの短いシーン。
トラは姿こそ見せてくれないが、おばちゃんの後ろでスヤスヤと眠る姿を容易に想像できる。
実際に会った彼女は圧倒的な存在感。
「ここの駅長さんだかんね」
駅のおばちゃんがそう教えてくれた。

この日出会ったもう一匹は、駅前で衛兵の如く番をする白黒のチョビ。
時に眼光鋭く、たまにウトウトと舟を漕いでいた。
のんびりとした駅のリズムが彼らにはこの上なく心地よいのだろう。

猫の集まる駅、根小屋。
根小屋と猫屋、語呂が似ているのは偶然の一致だろうか。



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by sanzokuame | 2007-09-07 16:38 | 今日のニャンコ、たまにワンコ


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